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野獣死すべし 里見八犬伝 愛情物語 夜叉
それから キッチン 月はどっちに出ている 共犯者
TERA:『野獣死すべし』の中で印象的だったのはどんなところでした?

今村:うーん、あの大きい「銀行」なんかホントどうしようかってね、この芝居をホントの「銀行」で出来ないっていう事だし、何とかセットを組めないかっていうんで「あぁ出来ます!考えます!」っていうところで始めて「銀行」っていうのは、その様に組めば、そんな様に組めばいいんで何とか出来たけど、この写真の中で台本が途中でどんどん変わっていく訳よ!優作さんのアイデアというか、かなりこの写真に入れられてて、主人公の伊達が実は従軍フォトグラファーっていう設定に優作さんが撮影の時、頭の中には当然あったんだと思うんだけれども、そういう風に持っていく訳ね。作品を観られれば分かるけれども、あるとこで転調する訳だよね、彼ん中ではないと思うんだよね。だから観てる側で観てるとさあ、室田日出男さん扮する刑事と列車の中で対決する。その辺からトーンが変わってきて、列車から飛び出たら戦闘服っていうか迷彩服を着て走り込む。ベトナムの従軍してるっていうような感じのね。イメージの絵がこうバンバン入っているので、どういう意味なの?って思いながらも、僕の方も悪く言えば、どうにでも出来る訳だ。料理が。それで、いわゆるその従軍の格好をして鹿賀丈史くんとその二人で行くみたいなところ。「地下の石造りの回廊(廃虚セット)」というところに入って行くんだけど、東京湾にある旧海軍のだった壕があるのね。猿島の表を使ってそっから入って行くっていう様にしたんだ。石造りで作ってあるのが実際にあるんだけれども、それをモデルにしつつ、もっとミステリアスな空間を作るっていうのは、どこにもそういう風には書いていなかった。台本ももらえたようなもらえない様な状況が続きながらの撮影だった。松田優作っていうのはこういう人だから、エキセントリックなとこもあって、深いところもあるんだけれども、自分が満足いってないっていうんで、なんだろうね?ビリビリしてた時代だったんだと思うんだ。欲求不満っていうか、それまで『遊戯シリーズ』とか自分のイメージが固定されてる事にいら立ちを持ってた。村川透監督とはずっと組んでやっているんだけども、その村川透監督の才能に対して、疑問を持つっていうか、俺の方が上だって思っちゃった訳だ。この作品の時は完全にそう思って乗り込んで来ちゃってる訳よ!で、打合せを始めた。で、優作さんも会議に来てる。そういうもんかなあって思って、でも僕も初めてのチームで、自分で切り盛りするだって初めてだから、まあどっちかっていうとキチンとしてましたよ。そしたら監督がこうザーっと説明するじゃん。そーすると松田優作が「おい村川!違うじゃねーかよ」なんて事を言う訳よ。「なんじゃろ?この人」と。そう言えば前から乱暴な奴だったなぐらいに思ってたの。そしたら彼が、この写真をこう撮りたいっていうのをどちらかというと軽々と話してたっていうこういう感じな訳だ。

TERA:ホンは丸山(昇一)さんでしたよね?

今村:うん。丸山昇一さん。このライターはなかなかハードボイルドで、こう鋭いハードボイルドでありながら、ちょっと軽妙なところも書くっちゅう本を書く人で面白いんだけれども、彼が撮影所に見にきた。そしてスタジオ入って「スタジオ間違えた」って出ていって、「あれ?スタジオどこだっけ」って、要するに自分の思ってたシチュエーションと違ったわけだ。そういうとこが可哀想っちゃあ可哀想なんだけれど、いくら書き込んであろうとライターはそこまでの役なんだろうね。後は、監督とかを中心とした者たちが料理しちゃう訳だから。観てもらえばわかるけど、最初ピストルをなめるところがあって、「彼のマンション」な訳だよ。あれがマンションっていうイメージは当然ながら丸山さんにはない。だから、セットを間違えた訳よ。

TERA:他に、セットについてのエピソードは何かありますか?

今村:セットの中で松田優作と僕は話をしたっていう経験はほとんどないの。何か感想はあった様な気はするけど。あまり覚えてないんだけれど、セットで彼は呑込んだんだと思うんだよね。この写真の自分自身の背景というものを。もちろん自分で固めてきているんだけれども、それを裏付けるものがね「今村という美術監督がやってくれてる」っていうのが自信つけたっていうのが僕が解釈していること。なんせ大変だった。監督と優作さんがうまくいかんから。ある日、助監督さんか?装飾の人か?が「今村さん、今日中止になりました」って、優作さんが来て「今日できねえ」って帰っちゃったっていう。いろいろ聞いてるし、昔っから役者さんたちにそういう人はいるからね。帰っちゃったなんて最悪だなぁと思って「なんで?どんなんだった?」って聞いたら「んーだめだ」って言って帰っちゃったっていうのが「廃虚」セット。平面図で言うと、カギ穴のような前方後円墳風。ここで鹿賀丈史くんが女の子を襲う。優作さんは銃、機関銃を構えてこのセット入った。その後、彼は帰っちゃったんだ。要するにそれまで猿島で自分の迷彩で衣装をしてやってきた訳で、最後は決めの芝居だと思ってるはず。自分が考えてきた芝居をするわけだから、ほとんどひとり芝居になる訳じゃん!そのシチュエーションにあまりに距離があった。提供したものと。それで「芝居はできねえ」と。聞くとまずいと思ったんだけど、結果でいうと、この人が継存してきたイメージと全く違ってたってことだよね?よく言えば、彼は自分の演技プランがこれじゃだめだと、作り直してくるってことで1日くれと。っていうことなのよ。例えば、僕らの仕事は監督だとか、その現場同士の詰め合いをするけど、役者とは、そういう事ってめったにない訳なんだよね。だから、僕がこの頃の作品でそういった経験をしたってことが、すごく大きかったね。言ってみりゃ喜んでもらえたってことだからね。うん。一日撮影ができなかったっていうのが、エピソードになるかな。
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↑巨大な銀行のセット。



↑銀行セットのための図面とパース画。



↑銀行内の金庫セットの実写とパース画。




↑主人公・伊達の部屋(上)と、別荘(下)のセット



↑エピソードから松田優作の演技へのこだわりが感じられる廃墟のセット。