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野獣死すべし 里見八犬伝 愛情物語 夜叉
それから キッチン 月はどっちに出ている 共犯者
TERA:次に崔監督との流れを教えてください。

今村:あの人もセントラルアーツの仕事はいっぱいやってたけれど、なかなか出くわすチャンスがなかった。すれ違いというかレールが違った。僕も崔ちゃんも角川さんの写真を手掛けてた。

TERA:それが『黒いドレスの女』で出逢いとなったんですか?

今村:そうそうそう。その前に『恋物語』という2時間ものテレビドラマをやったと。それが始めての出会いだね。角川さんが原田知世をどのように考えたかってういうと、スタートは大林さんの『時をかける少女』で、二番目は自分のやった『愛情物語』である、三番目は『天国に一番近い島』っていう風に、まあ、いわばメルヘンだね。っていうのから脱皮して、大人の女優に育てたいと思った。そこで『Wの悲劇』で薬師丸ひろ子を見事大人の女優に育てたって言う澤井信一郎を起用した。それが『早春物語』だと。『早春物語』の方は年齢的に近いよね?世界は。知ちゃんが自分に合ってる合ってないは別として。役者としては近い。でも『黒いドレスの女』になるとキャラクターも年令も完全にちがう世界をチャレンジさせた。それが崔洋一の『黒いドレスの女』っていう事なんだけど。結局、『早春物語』にせよ『黒いドレスの女』にせよ澤井信一郎も崔洋一も原田知世を料理出来なかった。まあ負けちゃったってことかな?加えていえば、もう一人角川春樹も負けってことかな?原田知世は「原田知世が原田知世を演ずる」っていう、他にはない希有な女優さんってことかな。崔ちゃんとは『恋物語』『黒いドレスの女』ときて、その後『花のあすか組』『Aサインデイズ』っていう風に崔組の一員と僕はなったわけだな。

TERA:それでは『月はどっちに出ている』のお話を。

今村:崔洋一が「力さん、力さん」ちゅうんで。で、えー崔洋一もキャラクターも手伝ってだけれども、バタっと仕事がなくなってきちゃった。そういう風になったのも松田優作さんが死んじゃったのも大きいよね。そうなってくると仕事がみんな切れちゃう。崔ちゃんがずっと仕事がなくなっちゃって、4年目になったっていった時に、シネカノンっていうプロダクションでね、どっちかっていうと配給会社。その会社の李鳳宇も崔洋一も在日って関係なのね。トライアーツの青木プロデューサーから電話があって「助けてやってくれ。崔を男にしないとしょうがねーぞ!もう4年も食ってねーんだ」って言ってね。なんていうか、仕事をやってる人っていうのは仕事やってない人のこと、どれぐらい仕事ないかっていうのを忘れちゃうんだよな。普段思っててもよ。「あっそりゃ大変だな」って思って、そのうちに崔ちゃんから電話があったりして「こういう写真やるんだ」っていうの。「えー?大丈夫かいな」って思うじゃない。「朝鮮人がタクシードライバーで、」そんな映画撮るの?って思ってさ。で、原作読んだらよけいやんなっちゃってさー。その前の『Aサインデイズ』の時もやだなって思ったんだよ。その沖縄のコザ騒動の。その僕らは学生運動の、崔は最中のやつだし僕は卒業生なんだよ。いわゆるその全共闘っていうわけでもなくいわゆる過激派と称される連中のフレンドがおった。ある一部のね。「あの辺のところの話をひっくり返すのなんてやだなー」って言ったの。「いや力さん大丈夫だよそれにはあまり触れないようにするから。」っていうの。「じゃあいいよ」って、やったのが『Aサインデイズ』だった。今度の『月はどっちに出ている』はそういう話だしね。でも僕も大変だと思ったっていうか、どこまで笑い飛ばせるかっていうか、むしろ引けちゃうんじゃないかっていう怖さ。でも、やりたいって言って。頑張ろうよって。特に話題になったのが「タクシー会社」が最後燃えるんだっていうところ。「力さんなんとか、どうやればいいんだ?」って。「そりゃオープンで建てて燃やすとかやりゃあいいんだよ」って。「オープンでやるって言っても、昼はどうする?タクシーをどうするとか言って、でもお金かかるからやめよっかな?」とも。でも「1檍で仕上げよう」という。今で言えば一億で映画は何本も成り立ってるぐらいなのに、この頃は一億で映画撮ることは無謀だったの。それでもやろうと。全部こう拝借してやるって言って、タクシー会社が一つ候補があるから見に行ってくれないかって見に行った。「大丈夫だよ」って言ったら、「これ燃えるかなぁ?」って言うんで、「大丈夫」って。

TERA:タクシー会社の場所はどこだったんですか?


今村:あれはねー、千住だったかな?そっちの方のタクシー会社だった。新社屋を作ってあれは旧営業所だったんで使ってない、倉庫になってて、ちょうど広場になってて、タクシーも車庫もあると。じゃあこれ使う?と。問題は火事だけじゃない。「火事は大丈夫、俺が絶対やる」っていうことでスタートしたの。で何年かぶりに崔洋一との取り組みと。そういう意味じゃ崔洋一との記念すべき写真というか、結果、『月はどっちに出ている』が日本映画のひとつの代表作を作ったというのにね。いい作品に結果としては巡り会えたと思う。

TERA:ほとんどオープンロケ、ロケセットですよね?

今村:オープンだし、全部ロケセットでいくわけだから、スタジオセットっていうのは組んでない。そこは映画通りの設定になってるわけじゃないんで、いろいろ苦労しつつっていうとこかな。映画の中で朝鮮人というような事を言ってるとね、それを支えるリアリティがないとどうしようもないことになるわけだから、さりげないところっていうか細かいところを押さえてはいます。いろいろ。ただ、やっぱりお金が厳しいというところでは、制作日数もどんくらいだったかね、1ヶ月なかったとと思うし。だけど、コンパクトのスタッフで、一気にやりあげていったっということかな。まさかここまでね、評判をとるって誰しも思わなかったんじゃないか??我々も監督もね、ひそやかには勝負するぞっていう気持ちは秘めてたにせよ、あそこまでとは思ってなかった。

TERA:セットが組めないってなった時に、ロケ場所を探すわけですよね?

今村:うん、でもね。ロケ場所っていっても、探すっていったってあちこちにある時代じゃない。相手は怪訝な顔をするしね。それを氏家さんってのがいるんだけど、口説きおとしたり、いくつか見れるところを見つけて来た。で、「見つけたのがこれじゃあな」っていうのになると消えちゃうんだけど、それの連続だったと。でもその探す苦労で言うと、僕よりは制作さんが大変だったって、僕の方はなんせ短い期間の中で、作品をあげるための美術的な準備にかなり追われたって感じかな?次々と現場が違うわけだから。でも前からロケセットでやるっていうのは、やってきてるからわかってる。その後はどんな写真でも慣れてやれるようになったし、日本映画の大半がそんなやり方になっちゃったわけだけれども。これをやって頑張ることによってね、日本映画に崔洋一が復活して、また僕はスタジオで作る美術、完全に僕が作れる世界になるわけだから、その方が楽しいわけですよ。僕だけの勝手でいえばね。で、そう言う風になるのかな?と思ったら、その世界は安きに流れて「誰にでも出来るじゃないか、一億で出来るじゃないか」ってこうなっちゃって、僕の仕事はさらに減ったとこういうわけ。

TERA:崔監督とは『月はどっちに出ている』に続いて何本かやってますよね?

今村:『東京デラックス』っていうコメディね。『マークスの山』で『犬、走る DOG RACE』をやって、そこで僕は一旦切れるんだけれども、っていうのは崔ちゃんが又しばらくなくなって『豚の報い』まで2年空いたんじゃないか?それは『豚の報い』はお金がないからっていって『盆踊り』っていうのを企画して、ロケハンまでして立ち上がったんだけど、インの10日前ぐらいにやめようってことになって2年空いちゃったんだ。で、同じサンセントシネマで『豚の報い』をやると。でもお金がないということも手伝って、僕はチームから外れたと。ここんとこで崔チームとは離れていくと。
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↑↓金田タクシーのロケセット。






↑警察のロケセット。



↑コニーの部屋のロケセット。