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野獣死すべし 里見八犬伝 愛情物語 夜叉
それから キッチン 月はどっちに出ている 共犯者
TERA:次に『それから』は?これ東映の映画ですよね?

今村:東映で封切ってる東映の映画だけれど日活の撮影所を使ってる。
えーと。そして今度は森田芳光で優作のをやるぞ!と。『家族ゲーム』やった後で、森田芳光でアクションだ!と、セントラルアーツの黒澤満さんに呼ばれて、まだ話がまとまってないけれど考えてくれと。また連絡があってまとまらないと。どういう風な話になるか知らなかったんだけど、ちょっと『太陽を盗んだ男』みたいな感じのね。松田優作のギャングというのかそんな話のアクションだった。そしたらまとまんなかったんでしょう。だけど番組は持ってるわけだよ、番組っていうの「何月、何月、何月」と年間のラインを決めるわけだよ。ここは何の写真、何の写真、番組が決まるわけ。いってみれば作品は森田芳光で松田優作でなんとかという写真でラインを作っちゃたわけだよな。できませんで投げちゃうと劇場を別の映画が劇場を埋めるわけじゃない。うーん。権利を放棄するのが嫌だったというのが当然あるでしょう。松田優作が言ったそうだが「おい森田、『それから』やろう」みんなびっくりするわな。アクションやろうといっていたのが、なんで夏目漱石やっちゅうことだけど。そんなのは僕が口を挟むことじゃないし、またアクションかよと思っていたところに。「『それから』、明治!やる!」って気分になるわけじゃん。で、やりましょう。というのが最初だね。明治っていうのがね、はたして今の日本で撮れるんじゃろうか?ということになって、当りはあちこち付けたの。今ほどのフィルムコミッションじゃなんじゃっていうのはないけど、それにしてもちょいちょいあたりをつけるわけ、どこの街なら洋館があってこうじゃないかとか、あるいは明治村にいけば、なんか出来んじゃないかとか、都電が出てくるけれども、あー市電かそんなのどうすんだろうとか。あっち行ったらこれが撮れるとか、そんなこといったら時間がどうしようもなくなっちゃうし、どうもセットである程度できるのかどうか、出来ない訳ないというところで、「やりますよ」というところで始まったの。で大半七割くらいセットでやった。時間がなくて大変だった。そういう意味では日活の美術はよく頑張った。それでも追いつかないところが東宝に行ったということになるね。ほんの一部だけどね。神保町の旅館で藤谷美和子と何年かぶりかに優作扮する代助があったっていう旅館は東宝に組んだの。それ以外は日活で組んでるんだけど、比べてみると仕上がりの差があるんだよ。今は差はなくなって来てんだけど、同じ手法で作る様になったからね。

TERA:で、セット的に一番印象的なところは?

今村:よくまあ言えば、「坂道」といわれるのが視覚的にもみんな分かりやすいからよく言われる。それから代助の家というのも細かい芸が沢山施されてます。明治というのを匂わすために洋ものを随所に入れた。例えば床の間なんかね。額だな。掛け軸やめて。なんせ七割がセットだったっていうのが苦労したと。そんで「坂道」というのをスタジオの中でどう表現するかというのは苦労した、結果出来ちゃえばこういうことかと思うんだけど、「坂道」というのは降りてくるのがいいのか。登ってくるのがいいのかね、坂の上の雲と言ったら、登らなければいかんじゃないかと。坂下じゃだめなんじゃないんかなと思って両方考える訳よ。登って来るとなると向こうに柳だな、ほいでこう来る、そこで出くわすと。こうゆう絵でいいかなぁーとか、いろいろよ、で結局は降りてくる方を取ったわけだな僕は。誰とも相談しようがないのよそうなってくると、もう自分で決めるしかないから。そしたら綺麗なセットになって喜んでもらえたけど。

TERA:北村道子さんの衣装とマッチしてましたね。

今村:そうそう北村道子さん、スタイリスト。日本でも先鋭的というか、第一人者である北村道子さんと初めてお仕事できて。非常に感心しました。彼女の色彩感覚というか、その物を作ると言うよりもコラボレーションというか上手くものをもってくる。色彩だな。なかなか優れてるなと思いました。のちのち彼女に言われたけど「やっぱり今村さんと、一番コラボレイトできた」と言ってくれました。ああ、うれしいなと思ったね。彼女とはこれと、そのあとの『キッチン』なんかで一緒になるんだけど。ほんとに一言二言でやりあいが終わるの、そうゆうとこは素晴らしいなあと思ったね。唯一あったロケセット撮影で、鎌倉の洋館ロケでね。実家という設定にしたんだけど、僕はこの画があんまり気にいってなくてね。セット撮影とスタジオ撮影との差が出てしまって、僕からいうと美術の設計がこわれちゃったな。

TERA:でもこの後、森田作品を結構やられてますね?

今村:うん。結局ね。森田さんとは仲いいっていうんじゃないけどさあ。まあ彼は彼なりに僕の事を、まあなんだろうな、料理しようと。こういう事でしょう。いい仕事できたと思うけどね。ただ森田監督も「もの」を持っている方だから。まー我も強い方だから。そう思うと100パーセント上手くいっているとは限らない。僕も言ってみりゃ我が強いって事になるだろうし。
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(↑画像をクリックすると1024×768サイズの画像を表示します。
ダウンロードしてデスクトップとしてもお使いいただけます。)


↑↓坂道のセットとイラスト。スケッチからかなり精巧に描かれている。






↑↓コの字型の平岡の家のセット。




↑電車セットのイラスト



↑↓背景画制作のためのイメージ画。
電車から見える景色の左右のテイストを洋風と和風に変えて、
明治という時代性を表している。