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野獣死すべし 里見八犬伝 愛情物語 夜叉
それから キッチン 月はどっちに出ている 共犯者
TERA:次は、角川で『里見八犬伝』。

今村:タイトルのイメージの絵は「西口司郎さん」っていうイラストレーター(『ブラックジャック』の単行本等のイラスト)が、決まってたんだけど、どんなイメージなのかっていうのを聞かれて、まず役者の入んないポスターを作ったんですよ。その時、僕が「お話の中でね、赤い海、あー海があって赤い雲があります。こういう風になって8つの玉が光芒のように散る」というようなお話をしたりしてさ。イメージ出しをした。それがトップのタイトルに使ってもらえたってことは、良かった。『里見八犬伝』は、何でその仕事がきたんか?っていうと、やっぱり、僕にとってみると、この写真を角川映画としてやったってことが角川映画での一つの評価だよね。
今までの時代劇じゃないものでやってみたいと。で、ちょうどその前に深作欣二監督も、『魔界転生』っていうオカルト風時代劇でかなり枠をはずしたっていう写真をやられてるんだけれども。それをやった後にこの写真が深作監督んとこにきて、僕と、仙元と渡辺というのでやろうということになったの。

TERA:すごい超大作ですよね!

今村:うん、そうね。大変だったね。要するにそのまんまで行けるものっていうの無いわけだし、時代劇だから時代劇のもの使えばいいのかっていったら、それも大半使えないというかね。とはいえ、そこを使いつつ、そこにこの世界の為のものを作り込むっていうことをしなきゃなんないんで結構大変だった。メインセットの中に大きな岩があるよね?あれが「酒舟石」のデザインだ。あの大和のね。あそこに「帰ってきたぞ100年なんとか」とかっていって夏木マリが血をこう注ぐんだよね?そうすると里見の城(館山城)が開くと。「酒舟石」にね血を注いでいって流れてこういくというのは「どうですか?」と「面白いな。それでいくか」とこうなる訳よ。又、炎っていうのがひとつこの里見家のね、デザインになった。全部、炎の形。

TERA:こういう映画では、デザインっていうのをどう考えていくんですか?

今村:『里見八犬伝』で言えば、どういう様なビジュアルにするかって考えるじゃんね。どうやらこの「里見家」っていうかこういう魔族とか、それに闘うものたちがどういうもんかっていうんで、いわば縄文人と弥生人みたいな分け方というか、そんなことを思ったりさ。要するに、忘れられた世界、遺跡の世界、今だ続いてる世界の人みたいなことで分けるかっていう事で、いわゆる遺跡という風に言われている様な要素?マヤでありピラミッドでありイースターであり、映画ファン達が好きそうな謎の世界みたいなものを適宜に組み合わせて、ぶちこんでいった。その要素はほんと一つ一つ見れば出てますけどね。例えば、縄文土器から火焔土器のデザインをもらう。あの石造りの感じっていうのはアンコールワット辺りとかもろもろですよ。

TERA:デザインの後の制作段階では、どう考えていくんですか?

今村:まず「館山城の大広間」がキーになるんで、どういう基調にするかなぁ?って、それこそ10ぐらいのバリエーション考えたから。もっと木造の普通って言っちゃ可笑しいけれども、木のガンっとした重い感じの様なの?っていうのもあるかなぁとか。でも地下に潜っていくんだから、やっぱり石がいいかなぁ?と。石だったらどうしようとかね。で、仏壇のような柱が欲しいなあと思ったら、あの黒い柱のようなものになってくるんだけれどもね。物量的な問題にしても。これが残念だけど、ハリウッドでルーカスなりがなんなりやれば、そのくらいのが4つも5つも出来るんだよなあ。奥にガーンっていったら、向こうには中広間があるのか、何があるのかわからんけどさ。あと「血の池」のセットと、もうひとつ「海道」っていって船が入ってくるセットとで、まあ大体この城の関係のものになるんだけどさ。

TERA:美術セットの制作段階でのエピソードありますか?

今村:やっぱり、時代劇であって時代劇でないから、みんな作んなきゃいけないっていうのが大変だったしさ(笑)「館山城の大広間」のセットは図面で書ききれないんですよ。ディテールが。図面書いてその通り作るとなると、これまた大変なお金と労力がかかる。発泡スチロール造形だけれども、基本は発砲スチロールの抜き型があるじゃない!掃除機の箱とか、そういうのを大量に入れて、この形のを何十とか集めるとかで、形組んでった訳よ。それすれば造形するのが早くなる。形が既成のものを使うから上手い形になるかっていうのは苦労がいる訳よ。すると柱のモチーフっていうか、柱をどうやってするかっていうのを、美術のスタッフがみんな終わってから、掃除だなんだ終わってから、試行錯誤する訳よ。それで形を作っていく。じゃここのここまではこういう形にしようAとつけておくから、その下にBをつけて、その右側にC、Dと張りつけて下さいっていって、順番にこう複雑な格好を作ってたってことで、大変だったよなぁ俺は。

TERA:「館山城の大広間」セットの制作と撮影自体はどれぐらいかかったんですか?

今村:1ヶ月こえる。京都の第一ステージっていう京都で一番広いスタジオだけど、ブリッジいっぱいまでで5間くらいあったかな?高さも12mぐらいか?いっぱいいっぱいだったから大変だったんだよ。撮影は随分かかったよ。仕掛けが色々あったし、メインのセットになるんで。これは11月の撮影になっちゃったんだ。この頃、雪がちらっときてた。なんで?っつたら深作さんも遅いっていうとこがあるんだけどさ、試行錯誤するっていうのもあるんだけれども、なんせ手間かかる仕事だったんだ一つ一つ。壊す、そしてつぶれてくるとか、出演者の数も多い。なかなか日本映画でここまでやりきれるっていうのは、ないんじゃないかと思うけど。京都の美術の人達は頑張ったとは思う。やっぱり伝統の底力というのかな、簪とかみんな一個一個デザインだよ!それを金物飾り屋さんに一個一個作ってもらうの。

TERA:『里見八犬伝』全体の撮影は延べどれくらいかかったんですか?

今村:撮影は83年6月頭ぐらいに入ったんだったけなぁ?で、終わったのは雪が降ったっていうんだから11月。だから5ヶ月ぐらいかかったのかな?僕はホントに春から撮影に入るまで3ヶ月ぐらい準備があった。で、京都へずーっと泊まりきりで。ロケは九州、主に阿蘇山とかあるけれども、あとは、京都近くを使いながら撮影していったわけ。地方ロケの大きいのは阿蘇山だね。あそこも大変だったな。
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↑今村さんがアイデアを出したタイトル。





↑館山城大広間のセットとイラスト



↑館山城セットのための図面とイラスト。




↑鍾乳洞セットの実写とイラスト・図面





↑森のセットとイラスト。



↑公開当時の雑誌紹介記事。 (c)角川書店