special issue: 伊藤正治氏×松尾博司氏:対談

moment short film project#1「或る男/THE MAN WHO」の伊藤正治監督と、#2「ICE CREAM」の松尾博司監督の対談です。
聞き手:TERA (moment)
(「short film」「web movie」「moment」などの話題で進行していきました)




short film project #1
伊藤正治監督作品「或る男/THE MAN WHO」(公開中


short film project #2
松尾博司監督作品「ICE CREAM」(公開中



2003.01.22/世田谷「moment」にて

<後半>

I:『或る男/THE MAN WHO』は、プロットを形で起こした時に、キャラクターを立たせたいなと思ったんですよね。読み物としてはいいんだけど、引っ掛からない。その時にキャラクターをどうするかというのがすごく問題で、別に流れ自体がもう出来ているからそれは関係なくって、キャラクターさえ出来れば良いだけであって、プロットから台本に起こすのに時間がかかったんですよ。10日ぐらいかな。結構時間かかっちゃって。でも、流れは別にああいうもんだろうと思ってたんで。

M:個人的に興味があったのが、『或る男/THE MAN WHO』の中で、サラリーマンが主人公で、『人の何倍かの速度で自分の人生は生きて行くんだ』って言いながら、仕事に失敗してっていうところの描き方っていうのは、伊藤監督の中にあるんですか?テーマとして。そういう人間のキャラクターの作りとして、なんだろうな。上り詰めようとして失敗してしまった人間とか。あの作品を観て一番興味があったのが、実はそこなんですよ。なんか人間のキャラクターの作り方としてそこに焦点を当てているのかな?と。

I:僕が興味あるのは、色んな事ありますけど、キャラクターで一番興味あるという言葉で言えば、『魔がさす』っていう言葉ですね。『魔がさす』一瞬に人はどうするのか。で、あのアクションであり6分先にあり何でもいいんですが、その人がどうやって生きて来て、魔がさして、どう変わったかっていうのがよければいいなって思ってるんですよ。『魔がさす』って周りから見ると一瞬の事に見えますが、実は自分の中で蓄積されていって、一瞬でドカッと。

M:『魔がさす』んですね。

I:それで用意しているストロークをずーっと描いて、何かが触媒が来てこう転ぶとかね。或いは、こうなるとかね。っていうようなことが割とやりたいっていうか。

M:『ICE CREAM』でアイスを捨てるシーンが、『魔がさす』所なんですけど、監督が、そこのシーンに非常にこだわられていたのは、それなのかなとちょっと思って。嫉妬なのか何なのかっていう。

I:だから、嫉妬は人に対するアクションじゃないですか。

M:うん、そうですよね。

I:今までのずーっときた日常を自分で断ち切る行為でしょ。

M:なんか意外と共通点があるような気がするんですよ。『或る男/THE MAN WHO』と。イメージが重なったりするような部分も、表面的な部分もあるのかもしれないんだけど、なんか男の方から見ると喪失感みたいなものがある中での『こんなことしちゃった』みたいな一つ事件としてあって『ICE CREAM』だとラブストーリー的な味付けをしているけれども『或る男/THE MAN WHO』だとそれがまた循環して行くみたいな味付けをしているし、意外に表面上は違っていても似たような感じなんじゃないかな?と勝手に思っちゃたりしていたんですけどね。1作目2作目比べて自分が。あとは伊藤監督が色々こう『ICE CREAM』に対して言ってくれるっていうのがすごく嬉しくて、シナリオの段階から色々言ってくれてたじゃないですか。『1稿目が良いよ』とか、魔がさす様な事を色々言ってくれるんですよ。KENはKENで色々言うからそれがまた面白かったり。そういう関係がまたいいですよね。いろんな面白い個性を持っている人がやることによって。全然違う事を出しちゃったりする事もあるんだけども、そのまま出しちゃったりする事もあるし、僕はそういうのがすごい好きなんです実は。

I:プロの作業で言えば、台本をライターが上げて来て、それでロケハンしながらメインスタッフとまわってる時に、台本に関して『あーでもない。こーでもない』って。ところが自分が台本書いて、ロケハン車に乗ってると、あんまり人は言わない。『んー』みたいな感じになって。言えばいいのに。そこに自ら切り出すって。『僕は一緒なんで何も言わないんで、何か言って下さいよ』って言うと、ぼそぼそと言い始めるんですけどね。自分の中でやっぱりまとめてるんだろうなっていうような。自分の中の計算でやって行くんだろうなっていうような周りの見方みたいのがあるから、本当はちゃんと言った方が良いんでしょうけどね。

M:そういうのははっきり言ってもらった方がいいですよね。「こういう意見を持ってるんだ」って言ってもらった方が。十人いれば十人の意見があるから。

T:伊藤監督を一番にした理由の一つがね。過去に撮った作品群の並びが面白かったんですよね。

I:初耳ですよ(笑)

T:普通の一般もの映画じゃなくて、割とお色気ものであったりするんですけど。でも割とそれは人間のリアルな群像劇であったりとかして、僕の中で撮りたいショートフィルムっていうものに一番近いものを撮ってきた人なのかなって。それで一発目この人しかいないっていう感じで決めたんですよね。

M:もともとは出会いはどういう事だったの?

T:僕のロンドンの友人の所に伊藤監督が一年間いたんですけど、それで噂は聞いてて伊藤監督がロンドンで書いてたシナリオの話もメールで相談してもらってて、それをどうにか作りたいって事があって。それはwebの立ち上げの前に聞いている話なんだけど、その時にショートフィルムっていうものがロンドンでは通常のように作られてるんだって知ったんだよね。それが去年(2002年)の初めぐらいかな。その時はwebの話とは直接つながってなかったんだけど、webを立ち上げるって決まって数日後くらいにモーメントに遊びに来てくれた。その時には実はプロフィールとかチェックしてて(笑)

I:「色っぽいの」しか出てこないでしょ(笑)

T:その「色っぽいの」がショートフィルムを作るにあたって一番いい作品群の様な気がしたんですね。

I:「色っぽいの」って結局人間ドラマだからね。人間の感情でしかないから、色っぽい作品を「ブツ」だけで撮ろうとすると面白くない。だから(映画の)常識的に撮っていく。で、ベットシーンを除けば普通のドラマになっちゃう。まあベットシーン自体も感情に重みをおいて撮るんですけどね。そうですね、割と人間ドラマですよね。

M:DVの話に戻っちゃうんだけど、どんどん画質も良くなってるし技術的にはかなりのレベルまで行くんじゃないかって思うんですけど。フィルムとDVってどうですか?僕は両方面白いなって思ってて、フィルムはフィルムで絶対残ると思うんですよ。DVは便利でコストが低いから一気に今後広まる可能性はあるなって。

I:単純に選択肢が広がるっていうのはいいですよね。

T:そのDV作品が今の所、一番適している媒体ってwebだと思う。テレビで観ても上映してても、うーんって思う。PCだとすぐ繋げるし、幅広く色んな人が作品を作って発表して行くと思うしね。

M:微妙な所であるよね。まだ劇場でかかるDVものなんかでも、やっぱりニュアンスが違うな、とかね。

I:劇場映画で24Pとかで結構撮れるようになって、コストダウンが図れるようになったら、そっちいく人はそっちいって、フィルムの特性を生かそうと思う人はそっち行ってというね。

M:結局そういう事になっていくのかな。高画質を求めるとお金がかかるってとこですね。

I:同じものだったらどうしてもフィルムを選んじゃいますから。DVの技術もフィルムに近付けようって技術だから。

M:でも気になってるのがDVがあまりにも普及してしまうと、フィルムのクオリティみたいなものていうのも捨てちゃいけないと思うんですよ、そういうものを残しつつ共存していければっていうのが僕の中の考えで、DVはほんとに手軽なんでもっと若い人は、ある意味こだわりを捨ててでも簡単に作れるものであれば作っちゃってもいいと思うんですよ。作品って一つ完成させる事によって次のステップにいけるって事があるじゃないですか。なのでどんどんやって欲しいなっていうのは思っていて、僕は今回作ったといいながらもそれなりに結構年くっているので(笑)そういう意味でも「moment」に関しても今後色々そういうところで協力できたらなと思っているんですよ。だから今回監督として入ったけど、例えばシナリオとか、あるいは助監督とかでもいいし、現場に関れるんであればまた声かけてくれたらなって思っちゃったりしてるんですよ。

T:そういう場は多分、今後いっぱいあると思うから、どんどん楽しんでもらった方がいいかなと思うな。webは小さな媒体だと思われがちだけど、実はワールドワイドであって。今日もある音楽家の人と話していて『サンフランシスコのミュージシャンがmomentのwebムービー観たよ』って聞いて、ああアメリカでも見れてるんだって(笑)割と広がりがあるな凄いって思いつつもね。また違う引いた目が自分にはあって。やってる本人が言うのはあまり良くないのかもしれないけど、どこかの地下室のパーティーというか井戸端会議的みたいに近所の人を呼んで8mm映写機を置いてジーッとみて「いいでしょ、面白いでしょ」っていう感じね。そういう昔の8mmオタク的なね楽しみの場をね。実はそういうのも大切にしていきたい所ではあるんですよ。でもね、一本一本が皆の熱意のこもった作品になっていて、一本ずつ順に流されていって、観てくれる人が徐々に増えていった時に、それがどういう結果を生むかっていう事もまた楽しみであって、意外な形に展開する可能性もあるし、意外な人が観てて意外な楽しみを持ってきてくれる可能性もあって、そういう意味ではひとつのコミュニケーションの形として意義ある事をやってて、みんなが楽しんでて、すごく面白い広場であったりするんだよね。

I:(松尾氏に向かって)ねっ『魔が差してる』でしょ。


一同:(笑)

M:だから面白い(笑)。

T:別に大した事やってないし、小さなひとつのアドレスの「moment website」。

I:でもすごく人は興味持ちますよね「moment」の話とかは。「何やってるの?」「ショートフィルム」「どこでやんの?」「ウェブ」「へ〜、...どっ、どどどうやるの?」って(笑)吃音をいいながら(笑)飲みに行こうかって誘われたりして、隣の町内会の井戸端会議は聞いてみたいみたいで(笑)

M:でも実際コンテンツ的にも充実してるじゃないですか。観た人は今の「moment」のsiteで結構充実したコンテンツを見られると思うのね。だから映画の知識がない人が見ても面白いんじゃないかと思うんですよ。もちろん映画を知っている人が見ても「こんな人の特集やってるよ」とかっていうのがあったりして。

I:面白いと思いますよ。ただひとつ惜しいのは、字がちょっと小さい(笑)。40代からはちょっと読めない。(笑)前にTERAには言ったんだけどね(笑)。

M:拡大モード作ったらいいんじゃないですか(笑)。

T:webには、さまざまな色んな形で充実したsiteが沢山あって、良い情報がたっぷりあるsiteとか、すごいカリスマ的な人物が特集されたsiteとか、「moment」より充実したsiteは、いっぱいある訳じゃない?だから僕が全く「moment」を知らない人で「moment website」を見た時にほんとに興味を持つかって云ったらそれは未だ100%でない訳で。ある人が観たら内容が充実してるかもしれないけれども、まだまだ引いた目で見て50%位でいる方が自分はいいと思ってるんだよね。これからの広がりの為にもね。

M:面白いと思うけどね。結構充実してるしね。

T:みんなそう言ってくれるんだけど、でもそれって本当に真に受けちゃいけないかなって。

M:それは慎重っていう意味ではいいと思うけど、ネームバリューのあるホームページの立ち上げ方じゃないから、中身が伴って無いとどうしようもないweb siteになっちゃうんだけど、そこに関して(momentは)安心していいんじゃないかな。

I:でもやっぱりweb siteの一番辛いところと言うか、面白いところでもあるんだけど、どんどん更新していかなくちゃいけない。そこが大変ですよね。

M:それはあるよね。月一回だから。でも今のwebのサイクルでいえば毎日、下手すると一日の中でも変わっていくからね。でもそれはmomentのペースを気に入ってくれた人が立ち寄ってくれたらいいかなって思うんですよ。僕が人にmomentのsiteを紹介すると、「これはいいsiteだ」って言ってくれるんですよ。そういう人も普通のweb siteも見てるわけですよ。俗に言うエンターテイメント系のweb siteも見てるし、有名人が出てるweb siteも見てるし、『ホっとする』と言う意味でもあるかもしれないし、本物指向って意味もあるかもしれないんだけど、ちゃんとしたものを扱ってるんだっていう意識はあるみたい。それは素直にみんないってますね。だからそういう人が集まってるから勝手ににじみ出てくるんじゃないかと思いますね。

T:web映画を作る上で『どうすれば数多くの人に見てもらえるのか?』っていう課題は今後クリアしていかなければいけないとはいつも思う。

M:インターネットだけの口コミっていうのも面白いと思うけどね。ショートフィルムのsiteを色々探してはみたんだけど「moment」みたいなのはなかったな。こんなに本格的に月一本っていう風にやってるところっていうと。2、3本のアマチュアの人が作ったものを集めてやってるものとかはあるんだけど。

I:あと海外から買ってきたりね。


T:有料が多い。でも多くの場合、お金を出してまで観ない。

M:うん、自分でも観ないと思う。

T:よほど大好きなスターやアイドル、アニメとか、コアなカリスマ性のある人が出てない限り、お金払ったりしないだろうし、音楽・映画等のカルチャーとかが総合的に揃ってても、ある人にとって貴重で新しい情報として引き出せるという様なコンテンツがない限りお金を出してみる人はあまりいないんじゃないかなって。

I:でも「moment」の場合近い将来か、遠い将来かわからないけれども、いずれ課金っていうのが、予算の問題とかで対面せざるをえないというか、いつなるかは知らないですけど(笑)

T:僕は全然考えてないんだけどね。課金にしたくないっていうのもあるし、もっとオープンで、サークル的なものであって、井戸端会議であって、紙芝居的なものであって、集まってきた人が誰でも観れるっていう。

I:そのためにはパーマネントな運動体でなければいけないんだけど、いずれそれをどういう風にまわしていくかっていう資金繰りの問題にぶち当たりますよね。それが課金でなければどういう形をとるのかって問題はいずれにせよ出てくると(笑)

T:当面、半年一年ぐらいは特に考えずに自由な枠の無いところでの作品作りっていうのを心掛けてね。どうしても課金とかスポンサードとか考えると拘束とか枠が出てくる。自然な流れでみんなが集まってパワーを発揮する場でありたいんだよね。

I:momentのショートフィルムが10個、15個集まった時にその数で力を持てますからね。その時にどういう風に企むかっていう事ですね。

T:そういう企みが出来るような作品作りはしていきたいですね。

I:そこが次のターニングポイントにはなりますよね。


T:是非ともみんなの力を借りてという感じです。

M:僕の考える「moment」っていうのは、それが一つのステータスになればいいんじゃないかと思ってるんですよ。初めてから一ヵ月か二ヶ月くらいの間にこれだけの人が集まって、色んなコミュニケーションとったわけじゃないですか。そこから絶対何かが生まれるはずだと僕は思ってて、例えば『ここで出会った人同士が映画を撮った/その時にmomentで知り合ったんだ/momentって何?』って聞かれた時にこういうsiteがあるんだよって、で又その人達が海外でやっていた時に『「moment」でやってたんだよ/何それ?/こういうsiteがあるんだよ』って、それはもう付加価値的なものだよね。

I:『moment細胞』が。

T:昔からね、今言ってた『出会った人が外でも一緒に作業する流れ』っていうのは、昔から僕の楽しみっていうかね。例えばある仕事があって、スタッフの初顔合わせがあるじゃない?それでその仕事を通じて知り合ったスタッフ同士がまた別の違う作品でも交流していくっていうのは、僕的に仕事をやってて一番楽しい出来事だったりする訳で、実は「moment」っていうのも当初それを仕事場じゃない所でやりたかったのが一つの発端なんです。フリーのクリエイターの出会いの場っていうかね。

M:そこに一つのステータスとして「moment」がある。皆「moment」を通過してやってきたじゃないのっていう。僕も一つの通過点として考えていて、ここで色んな人と知り合えたっていう事を大切なポイントとして持っていれば「moment」って生きてくるんじゃないかと思うんです。現実的にはお金の問題もあるとは思うんだけど、それは成りゆきとかもあるでしょ。半年経ったら、ぶっちゃけ無くなってるかもしれないじゃない。

T:そうだね...。あっ「そうだね」って言っちゃった(笑)。

一同:(笑)

-END-


(c)2002 Dolphin Rocket Pictures

松尾博司監督作品
『メモロイ』
監督 ................  松尾博司
脚本 ................  大吉
撮影 ................  武藤奈緒美
音楽 ................  ありまゆみ
出演 ................  田中信広 小林祐子 他

 


(c)1996 日活

伊藤正治監督作品
『軽井沢夫人 官能の夜想曲』
製作 ................  井狼達也
監督 ................  伊藤正治
脚本 ................  高橋洋
撮影 ................  村石直人
出演 ................  真邑村ケイ 鶴見辰吾 他